第4章 旅立ち
「…え?」
今この男はなんと言った?この村を…蟲睦村を出る?私が?
「それは、何故です?」
「ここに来てからの様子を見るに、はこのままここにいたらいつしか村人に殺されかねない。そう思ったからってのが理由だな」
この村で生まれ育ったのだからこの村で最後を迎えたい。その願望はない訳では無いが、しかし思い直せばそれは強い願望ではなかった。
「わたし、は…」
「じゃあ言い方を変えよう。外の世界を見たくはないか」
外の世界。この村の外。
「俺はあんたを見殺しにするくらいなら無理矢理にでも連れ出して外の世界を見せてやりたい」
本当に、連れ出してくれるのだろうか。私にとって世界の全てだったこの村から。
「…少し、考えさせてください」
(外の世界…か…)
私には縁のないものだと思っていた。
この村で生まれ育ち、そしてこの村で命を終える。それが私の生き方なのだと信じて疑いもしなかった。
(私は…どうするべきなのだろう…)
この村で、この小屋で最期を迎えるか。はたまたこの村を出て、多くのものを見て触れる旅に出るか。
先程は無理矢理にでも連れ出すとまで言っていたが、この村に残る意志を見せたら彼は私を残して行ってしまうのだろうか?
――――ズキ…
ギンコさんと離れることを思うと、胸のあたりが少し痛んだ。
「…久しぶりに敵意のない人に会ったから寂しいだけ…よね」
まさか出会って1日程度しか経っていない相手に惹かれるなど可笑しい。
(まさか、ね。…でも)
でも、蟲師の彼と旅をするのも悪くないかもしれない。その気持ちは意外にもすんなり私の中に落ちてきた。
――――出よう。この村を。
そして私は蟲睦村を出る決意をした。