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蟲姫

第4章 旅立ち


「はぁ…参ったな。そんなに嫌がられちゃ最後の手として口移ししてでも飲んでもらうが」
(なんですと!?)
それはいくらなんでも卑怯じゃなかろうか。しかもこっちは一応年頃の娘だぞ。
「なん、で…」
「理由か?床に伏してるところ悪いがお前さんにいくつか聞きたいことがあるんだ」
正直な所、質問にまともな返答ができるほどの余裕はなかった。首元の痛みでどうしても上の空になってしまうのだ。
(まずいな。痛みの方にほぼ意識が持っていかれてる)
そしてギンコは意を決し、薬液を口に含んだ。
(悪いがこっちも急ぎなんでね)
返答の内容次第ではこの娘を蟲睦村から連れ出さねば取り返しのつかない事になり得ない。
は突然のことに身体を強ばらせ、されるがままになっていた。
「っ!急に何するんで――――」
そこではたと気づく。先程は声を出すのもしんどいほどだったのに、先程の薬を飲まされてからは内に響くような痛みが随分と和らいでいた。
(この人…)
「痛みの方は楽になったようだな。あ、痛みを抑えてるだけだからあんまり動くなよ」
「は、はい」
「さて。本題だが…まずそんな怪我負った理由から聞こうか」
そういってギンコさんが指さしたのは首元。…まぁ、こんな怪我負って倒れてたら不審に思うよね。
「これは村の子供にやられました。まさか小型の刃物を投擲してくるとは思わなくて」
「このことをその子供の両親に言う気は?」
「ありません。彼のお父様の目が蟲に喰われたらしく、それを私のせいにして少しでも気が楽になるのなら…伝えるのは野暮というものでしょう」
「…なるほどな。じゃあ最後の質問だ」
――――――お前さん、この村を出ていく気はあるか?
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