第2章 右目を追う
松永から早々に興醒めされ逃がされた自分では気づかなかったが、以前の出来事を知る政宗殿はなるほど当然に恥辱されたのではと疑ったはずだ。
それでそんなに怒ってるのか。
「な、何もされていない」
「嘘つくんじゃねぇ!」
「嘘ではない! 政宗殿が心配しているようなことは、何も・・・そんなに怒ることないじゃないか。私だってこれで精一杯だったのだぞ・・・」
「怒ってねぇ!」
「怒っているだろ!」
「テメェには怒ってねぇ! ・・・俺に腹が立ってるだけだっ・・・」
「・・政宗殿・・・」
─二度とこんな目には合わせねぇ─
それは以前に、政宗殿が私に約束してくれたこと。
彼が彼自身に腹を立てている理由はその約束を破ったことだとすぐに分かった。
「本当に何もされてはいない。それに捕らえられたことは私の落ち度だ。政宗殿に責任などないだろう」
「俺が気に食わねぇんだよ! いいか! お前は俺だけのモンだ! 分かってんのか! あんな野郎に触らせてたまるか!」
怒りのせいであまりにもむき出しになっている政宗殿の欲望が、私の胸を熱くした。
こんなにも独占欲を示されて、しかもそれを隠そうともしていないのだから、こちらはただただそれを受け止めるしか許されていない。
受け止めるたびに、その嬉しさにのぼせ上がりそうになった。
しかし、そんな中でも「何もされていない」という事実を彼が否定し続けているということにも気がづいた。
「・・・政宗殿、本当だ。本当に、何もされていない。・・・私が嘘をついたことがあるか?」
「・・・ハッ、嘘だらけじゃねえかテメェは」
政宗殿のことを好きなのに、いつも反対のことばかり口にする。
きっとそんな私のことだった。
確かに私は、今まで嘘ばかりついていた。
政宗殿はおそらく私の言うことを信じていないわけではなかった。
何かされたにせよ、何もされなかったにせよ、目の前で私が連れ去られたことに対する自分の罪を、こうして私の言葉を否定することで形にしているのだ。
「政宗殿・・・」
私はこんな表情をさせたかったわけではない。
彼がこんなにも嫉妬心を持ってくれていることは嬉しいけれど、私が欲しているのは、もっと・・・
「政宗殿・・それなら、その・・・確かめてみるか?」