第2章 右目を追う
「政宗殿、待ってくれっ、足が動かぬのだっ」
いつもより強い握力で手を引かれるが、毒のせいで足は満足に動かずもつれていった。
倒れる前にその腕は簡単にこの体を受け止めて、そのまま軽々と抱き抱えられた。
最初は恥ずかしくてここに収まっていられなかったものだが、もうこの腕の中にいることは慣れたものだった。
しかしその腕は少し乱暴だった。
労り包む抱え方ではなく、私の動かぬ体をただ自分の意の場所まで運ぶ、それだけに思えた。
それは彼が怒っている証拠だった。
彼が怒る理由は、ありすぎて分からない。
「どこまで連れてくのだ、政宗殿。・・・分かっている。怒ってるのだろう? ・・・それは私が松永に捕らえられたからか? それとも風魔殿に・・・」
先取りしてペラペラと話すことで彼の怒りを鎮めたかったのだが、それは逆へと働いた。
察するに「松永」という言葉を出したとき、彼の怒りは頂点に達したのだ。
「っ・・・」
大きな舌打ちとともに、私は乱暴に降ろされた。
「政宗殿っ・・・」
労ってはもらえなかったが、落とされたところは痛くはなかった。
そこは岩場から外れた林の中で、大きな木々の足元はふっさりとした草が生えそろっていたのだ。
座り込んだ私を、彼は立ったまま見下ろしている。
その目は悔しさで見開かれ、二列の歯がギリギリと音を立てて軋りあっていた。
「政宗殿・・・こ、怖いぞ、そんな顔をされては・・・」
「・・・何をされた・・・?」
「え?」
「松永の野郎はお前に何しやがった!?」