第2章 右目を追う
「・・・・紫乃。ちょっと来い。」
「えっ・・・?」
私が戻ったことに対する祝いの空気の中、それに似つかわないほどに低い声で政宗殿が呟いた。
伊達軍は緊張を感じ取ったのか、ちらほらと黙り込んでいく。
「政宗殿・・・? あのっ・・・」
「来いっつってんだよ。・・・おい西海の鬼。コイツとちょっくら消えるが、追いかけて来んじゃねーぞ」
「お? おぉ・・・。なんだありゃ。どうしたってんだ?」
元親が伊達軍の面々に尋ねると、政宗殿が行ってしまったあと、佐間助が代表して答えた。
「ああなると止められないっすよ、筆頭は。・・・紫乃のことになると」
「へぇ・・・。独眼竜ってのは、つくづく人間らしい野郎じゃねぇか。気に入ったぜ」
背後で元親達のそんなやりとりがなされるが、私と政宗殿はそこからどんどん離れるように森の奥へと入っていった。
射られていない方の手を引かれ、まだ何かに怒っている様子の政宗殿の表情を伺ってみる。
怒っている理由は分からぬが、私の心臓はバクバクと鳴り始めていた。
二人きりなのだ。
・・・何をされるのか、何を言われるのか。
それは恐れでもあり、しかし期待でもあったのだ。
自分のそんな胸の内に呆れながらも、周囲の声が遠くなっていくたび、静まり返る森の中に引き込まれていくたびに、体は熱くなっていった。