第2章 右目を追う
「ケガはねぇか」
「ああ、すまない・・・毒のせいでまだ動けぬのだ・・・」
「このまま掴まってろ」
動けない私を抱き抱えてもらうことは、政宗殿においては何度もあった。
それでもその度に情なく思いつつ、その先にいつも諦めて甘えてしまおうという気になるのだ。
今もそうだ。
私たちは、私のこの体をここまで運び、すんなりと差し出した風魔殿をもう一度見た。
政宗殿は少しも警戒を解いていなかったが、表情の険しさは緩んでいた。
元親においては、風魔殿が敵だという認識をやめているように見えた。
「・・・風魔殿、なぜここへ連れてきてくれたのかは分からぬが・・・恩に着る」
「・・・。」
もちろん政宗殿は礼など言わなかった。
ただ風魔殿がまた花弁を散らし消えてゆくまで睨んでいただけ。
風魔殿が去ると、緊張の糸が溶けたように伊達軍が歓喜の声を上げた。
「紫乃! 無事だったか!」
「お前に何かあったらって俺たち心配で・・・!」
「災難だったなぁ、松永のやつ紫乃ばっかり狙いやがるからっ・・・」
「お前ら・・・」
伊達軍のあたたかさに迎えられて、じんわりと涙が出てきた。
元親も私の頭をグリグリと撫でてくる。
「も、元親! やめてくれ!」
「やっぱ大した女だぜアンタはよォ! 敵の手下を色にかけるとはなぁ!」
「なっ・・!? 人聞きの悪いことを言うな!!」
こんなことを言うといつも政宗殿は機嫌が悪くなった。
しかしちらりと横目で表情を確認したが、いつものようではなかった。
何かに怒っている感じはあったが、それはじわりじわりと内から沸き上がる怒りがだんだん滲み出ているような、そんな表情だ。