第2章 右目を追う
「・・・情けないなぁ、私は・・・」
自分でも驚いたが、気づけば目からホロリと大粒の涙が流れていた。
それがけっこうな重量を宿したまま、座り込んだ太ももにぱたぱたと落ちていく。
──会いたい・・・
風魔殿が喋らないせいか、やけに自分の心の声ばかりが聴こえる。
彼の前で気持ちを押し殺してきた反動で、こうして抑えきれなくなるときがある。
それはもはや忍だの武将だのという関係の気持ちではなかった。
政宗殿のそばにいたい、そんな女としての願望が自分の中にあるのだ。
伝説の忍を前にして、こんなに感情的になってしまうのは恥でしかないが、それでも今とばかりに気持ちが込み上げてくる。
「・・・はやく政宗殿のところへ行かなければ・・・風魔殿、此度だけ、此度だけっ、毒消しを持っていたら私にくれぬか?」
「・・・。」
「・・・無理か。そうだな。私を助ける道理などないことは分かっている。・・・分かってる。言ってみただけだ」
「・・・。」
仕方なく力を抜いて、そのまま体を床に倒した。
ひんやりと冷たい床に仰向けに横たわり、少しでも早く毒が抜けるよう深く呼吸をした。
風魔殿は攻撃などはしてこなかった。
する兆しもないため、私はなぜか緊張を解いていた。
それは間違いだったかもしれない。
「・・・政宗殿・・・」
そう呟いたとき、風魔殿が動いたのだ。
「なっ・・・!? 何をするっ!?」
冷たい山のごとく動かなかった風魔殿は、私の体の上に覆い被さってきた。
相変わらず言葉は発せず、そして今回は心の内も読めない。
床がギシ、と音を立てている。
相手が相変わらず気配を消しているせいで、こんな体勢でいるのに威圧感はわずかなものだった。