第2章 右目を追う
───風魔小太郎は決して返事をすることはなかったが、かすかに動く口元や面の下のわずかな表情の違いから、彼には感情がまるでない、というわけでは決してないと分かった。
私はそれをひとつひとつ読み解きながら、諦めずに質問攻めにする。
「片倉殿がどこへ行ったか知っているか? お館様のお見立て通り豊臣が小田原へと向かうのなら、竹中や豊臣秀吉も城を離れると思うのだ」
「・・・。」
「片倉殿なら、その隙を見逃すはずはない。きっと抜け出しているに違いないのだ。どうだ風魔殿、城で彼を見かけたか?」
「・・・。」
「おぉ! 見たのだな! やはり片倉殿は無事でいるのかっ!」
正しい情報かは分からぬ、私の読心術が間違っている可能性は大いにあるが、片倉殿の安否を確認できたということにした。
松永に囚われているという状況は変わらずとも、それだけでひとすじの光が見えた気がした。
しかしそろそろ体が動くかと思い腰を上げてみるが、まるで腕に力が入らない。
「・・・くそっ、この毒、息が長いな・・・」
麻痺を起こす毒に対する解毒は今は持ち合わせていなかった。
この居心地の悪い屋敷にいつまでも腰を落としていたくないのに、体は言うことを聞いてはくれない。
──政宗殿のそばに行きたい。
ついにはっきりと、切なくなるくらいにそう感じてしまった。
きっと心配をかけてしまっているだろう。
奴は私のことになるといつもそうだ。
・・・本当に、本当に私のことを好いてくれているのだ。
政宗殿の腕の中が恋しい。
戻れるのなら、強引な口づけもまた何度でもしてほしい。