第2章 右目を追う
「政宗殿!!」
この高さから地面に落ちれば無傷ではすまない。
政宗殿だけでも助けたくて、体勢を立て直していた私は彼の体に手を伸ばした。
しかしそれはかなわなかった。
政宗殿の体が落ちていくのとすれ違うように、私の体は岩場の頂へと引っ張られたのだ。
「なっ・・・!?」
「こんにちは、お嬢さん。」
私を引っ張りあげたのは、松永久秀だった。
「紫乃!!!」
落ちていく政宗殿の私の名を呼ぶ声が、徐々に遠く離れていく。
またこの男の手に捕らえられてしまった私は、目の前が真っ暗になった。
手首を捕まれて岩場の頂へと引っ張りあげられると、奴は私の体を抱き寄せようとした。
「やめろ!! 私に触れるな!!」
「・・・君が来てくれるとは思わなかったものでね。つい助けてしまったよ」
「離せ! 私は政宗殿のところに戻る!」
「・・・ほう、その様子だと、独眼竜と想いを交わしたのかな?」
面白そうなオモチャを見る目で、私を舐めるように見てくる。
この目が大嫌いだ。
虫酸が走る。
「伊達の足留めはこれで済んだ。今は酒の肴を探そうと思うてな。・・・己の女を奪われて、狂った竜の金眼から流れる涙・・・それにしよう」
意識は朦朧としていた。
熱はあがっていき、体の自由もきかなくなっていく。
「松永・・・貴様・・・」
「矢に塗った毒に今まで耐えていたのかな。ずいぶんと丈夫な体だ。・・・さあ、眠りなさい」