第2章 右目を追う
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「見てみろ、いやがったぜ」
先頭を走る元親が、目の前にそびえる岩山の頂きに立つ男を、政宗殿に顎で示した。
私からは良直の背に隠れて見えていなかった。
それでも奴を見なければならない。
もう乗り越えたアイツの姿形など恐れる必要はないのに、背筋の寒気は止まらなかった。
「・・・あの野郎が松永か・・・」
政宗殿は歯をギリギリと鳴らし、まだ距離のある松永を睨み付けた。
「・・・っ」
その姿をやっと確かめた。
松永は目を閉じ、口元をニヤリとつり上げていた。
その顔は私を弄んだときに見せた表情そのもので、それを思い出した瞬間、吐き気を催した。
「お、おいっ! マジで大丈夫か紫乃?」
「・・・だ、大丈夫だ」
良直は少しだけ、馬の速度を落とす。
先頭を走っていた政宗殿と元親は岩場をかけ登り、早くも松永の足元へ届かんとしていた。
かすかに火薬の匂いがした。
以前戦ったときも、松永は爆薬を操っていた。
嫌な予感がする。
「政宗殿!! 元親!!」
馬の背を踏み台にして、二人のもとへ飛んだ。
そのせいで馬は良直ごと地上へと戻される。
しかし二人のもとへ届く前に、岩場に仕掛けられていた爆弾が次々に爆発していった。
「君の右目はここにはいない。ご苦労だったな」
奴に届く前に、岩場をが崩れていく。
奴がいる場所だけをギリギリ残し、他のものすべてがまっ逆さまに落ちていった。
「チィッ・・・・!」
「松永ぁ! テメェ!」
二人も爆発に馬の足をとられ、そのまま岩場の下へと落ちていく。
岩場の中腹まで来ていた兵たちも、爆発にあてられて馬ごと落ちていった。
どこまでも卑怯だ。
片倉殿もいないのに、わずかな可能性に掛けて約束どおりやってきた政宗殿を、こうして罠にはめるなんて。