第2章 右目を追う
政宗殿は六爪を据え直すと、元親を見やった。
「おい、アンタは俺の軍を連れて大阪へ行ってな。用事を済ませたらすぐに追いかける」
その言葉に、伊達軍はざわつき始めた。
「そんな! 筆頭! 俺たちも行きます!」
「連れてってくだせぇ!」
「政宗殿、私も行く。」
私は当然ともに行くものと思っていたが、政宗殿は首を縦には振らなかった。
「西海の鬼。紫乃はアンタに預けていくぜ」
なっ・・・
私が反論するよりも早く、元親は口を挟んだ。
「紫乃を俺に預けるとは・・・意外だな。それだけあの野郎に紫乃を会わせたくねえ理由でもあるってのかい?」
「・・・まあ、そんなとこだ。手ぇ出したら承知しねぇぞ」
「そりゃあ約束しかねるぜ。・・・てことで、どうだい独眼竜。ここはひとつ、この鬼の加勢を受けな」
「あぁ?」
「松永・・・アイツは一筋縄ではいかねえ男よ。二軍で出向けばアイツの意表を突けるじゃねえか」
「・・・生憎だが、俺はもう二度と、松永の野郎に紫乃の姿を拝ませるつもりはねぇんだ」
政宗殿・・・。
私にあんなことをした松永を恨んでいるんだ。
それに私を心配して、会わせまいとしてくれている。
・・・政宗殿は優しい。
駄々をこねるような物言いでこうして私を気遣ってくれるのだ。
いつまでもそれに甘えていてはいけない。
「政宗殿。私は大丈夫だ。ともに片倉殿を取り返しに行こう」
「お前が大丈夫だろうが関係ねぇ。俺の気が収まらねえんだよ」
「・・・ならなおさら、アイツのことなどとっくに乗り越えた私を見せてやろうではないか」
そうだ。
私には政宗殿がついている。
だからもう奴に弱さを見せることはない。
「・・・ったく、お前にはかなわねーな」
片倉殿を取り返すために、伊達・長曾我部両軍はこの先の岩山を目指す。
私たちは夜が明けるのを待つこととなった。