第2章 右目を追う
「だ、大丈夫だ政宗殿、かすっただけだ。これくらいなんともない」
「ちくしょう、誰だ・・・」
すると佐間助が、木に刺さった矢を抜いた。
「筆頭! これ、文がついてます!」
くくりつけられた文を広げた佐間助は、顔を歪めた。
そしてすぐに苦い顔のまま政宗殿に手渡す。
「・・・政宗殿?」
字を追っていくにつれ、彼の顔つきは険しくなっていく。
元親も、様子のちがう政宗殿に眉を潜めた。
「誰からなんだ?」
「・・・松永久秀・・・だとっ・・・」
─ドクン─
松永久秀。
忘れかけていたその名前を聞いたとたんに、記憶が蘇るように心臓が鳴った。
身体中に走る嫌悪感。
あの這い回る手の感覚。
「なっ・・・・なんで、松永が・・・生きていたのかっ・・・」
ガクンと膝が崩れ落ちた。
四人組が駆け寄って支えてくれるが、私がなぜこんなにもうろたえているのか分からぬ様子だ。
・・・松永の屋敷。あそこで私が何をされたのか。
それを知るのは、今は政宗殿だけなのだ。
「それで、松永は何て言ってきやがったんでぃ?」
元親は目を細めてそう尋ねた。
「・・・豊臣に奪われてるうちの副将が、この先にいる。松永が人質にとって待ってやがるそうだ」
「・・・松永、そいつはちょいと俺の軍も世話になってな。・・・あの野郎、今度は豊臣についたってわけかい」
トドメをさし損ねたことに後悔した。
でもアイツが豊臣につくだろうか。
戦にはおよそ興味がなく、人の絶望を酒の肴にするような奴なのに。
・・・きっと、何か企んでるに違いない。
「政宗殿・・・行くか?」
「行くしかねぇだろ。こうしてフザけた真似された以上、落とし前をつけに行かなきゃならねぇ」