第2章 右目を追う
── 一体何が起こっていたのかというと。
伊達政宗の一行と対峙した長曾我部元親は、その馬を奪わんと喧嘩をふっかけていたのである。
「悪いがその馬、ちょいと置いてってもらうぜ」
大きな錨を背に背負い威嚇すると、背後の長曾我部の軍勢が囃し立て始める。
「うちの兄貴に逆らわねえほうが身のためだぜ兄さん!」
「今のうちに馬ぁ置いてずらかりな!」
ギャーギャーと騒がしく怒号が飛び交う中で、伊達軍も負けじと、政宗の背後から応戦し始める。
「てめぇら筆頭に向かって何言ってんだ!」
「山賊ごときが筆頭とやり合おうなんざ馬鹿言ってんじゃねぇぜ!!」
随分と荒っぽい二つの軍が言い合っている様子に、大将の二人は睨み合いながらニヤリと笑っていた。
「活きの良い野郎どもを連れてるじゃねぇか、兄さん」
「アンタんとこのも、喧しくて飽きねえ連中じゃねえか」
政宗は刀を、元親は錨を、体の前で構えた。
囃し立てられた土俵で、二人はぶつかり合うタイミングを計り始める。
お互いの獲物が、カチャリと音を立てた瞬間、二人は走りだし、ぶつかり合った。
「俺は山賊じゃねえ! 海賊よぉ!」
「ハッ、山ん中に現れといて、てんで実感湧かねえなぁ!」
キンッ、キンッ。
獲物は何度も何度もぶつかり合い、その度に両軍の歓声は強まっていく。
大振りのどっしりとした元親の錨を政宗は細い刀で受け止め、それを押し返す。
元親もその隙を狙い、拳を使って殴りかかった。
──両者一歩もひかない、互角のやりあいが続いた。
両軍はざわつき始める。
己の大将に敵うものなどありはしない。
少なくともそれはこんな山中に偶然現れることなんてない。
そう思っていたのに、大将と互角にやりあう相手に、だんだんと歓声は止み、相手が誰なのかという正体の暴き合いへと発展していった。
「六爪に、青の陣羽織・・・まさか・・・」
「でけぇ体に、錨の獲物・・・まさか・・・」
両軍が、双方の大将の正体に気づきかけたとき。
「元親ぁ!!!」
紫乃が飛び出してきたのだった。