第2章 右目を追う
「良直、政宗殿の方へ馬を寄せろ!」
「おう!」
指示通り先頭の政宗殿の馬へと寄っていき、その背後についた。
「政宗殿!」
「おう紫乃。お前のお里は豊臣に落ちちまったのか?」
「そんなはずないだろう! 私が話をつけてくる! 」
「やめときな。お前がこっちにいることは百も承知でふっかけてきてやがる」
「っ・・・」
お館様っ・・・
なぜっ・・・
──しかし、よく目をこらしてみると違和感に気づいた。
誰一人、兵の顔を見たことがないのだ。
共に鍛練してきた武田の兵たちの顔はよく知っている。
これだけの人数がいれば顔見知りは何人もいるはずなのに・・・。
「・・・政宗殿、これは武田ではない」
「OK.なら、派手にやらせてもらうぜ」
刀を抜いて赤い兵たちに応戦する。
政宗殿が突っ込んでいったところは兵たちが重力に逆らうように次々と飛んでいった。
「っ・・・」
私も馬から降りて、襲いかかる兵たちに斬り込んでいく。
しかし武田の御旗を立てた相手に、トドメを刺すことがどうしても躊躇われた。
「紫乃!」
すると南より、聞き覚えのある声が名前を呼んだ。
この声は・・・
「佐助様!!!」
佐助様も赤い兵たちを斬り込みながらこちらへ向かって来ている。
良かった、やはりこれは武田ではない。
「久しぶり! って挨拶したいところだけど、ちょっくらコイツらを片付けてからにしないとね」
「この兵は何なのですか? なぜ武田の御旗を・・・」
「コイツらは豊臣だ。武田のフリをして伊達と突き合わせようって魂胆らしい」
「そんなっ・・・」
なんて策だ。
己の御旗ではなく他国に扮することで憎しみを生む。
豊臣のやり口は、片倉殿を拐ったときから心底気に食わぬものだ。
「佐助様!」
「ああ。早いとこ片付けちまおう」
佐助様とともに、もう1度赤い軍勢の中へ斬り込んでいった。
真の武田兵と伊達がコイツらを殲滅するまで、時間はかからなかった。