第2章 右目を追う
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人取橋で謙信殿と別れてから、ずっと南西に走っていった。
いいかげん政宗殿の馬からは降ろしてもらうことができ、それからは良直の後ろに乗っている。
でも少しだけ、心がざわつき始めていた。
──もう少しで、甲斐を通るのだ。
「紫乃、甲斐の皆さんに挨拶してくのか?」
ふいに良直はそう聞いてきたが、私は苦い顔をしていた。
もちろん顔を見せていきたいが・・・正直、どんな顔をして会えば良いか分からない。
おそらくお館様に会えば、伊達軍を取り込むことを打診されるだろう。
上杉軍とともに、武田と手を組む。
このまま大阪へは進まずにまずは関東を強固に固めようとするはず。
お館様はそういう方だ。
まずは軍の力を蓄え、勝てる戦にするための策を立てる。
政宗殿のようにがむしゃらには挑まぬ御方。
・・・でも絶対政宗殿は断るだろうし。
それに私は、お館様が期待する働きはできそうにない。
政宗殿の意思にこんなにも共感してしまっているのだから。
「・・・皆と同じ。政宗殿についていくだけだ」
「顔見せくらい筆頭にお願いしてみたらどうだ?良いって言って下さると思うぜ」
「ありがとう良直。でも大丈夫だ」
「・・・おっ! 噂をすりゃ、林道の向こうに武田の兵が沢山いやがるじゃねーか!」
──え?
良直が指をさす方向を見ると、たしかに林道を抜けた先に武田の家紋の旗を立てた軍勢が待ち構えていた。
何のために・・・?
奥州を発つことは配下を通じてお館様へお伝えした。
ここで私たちを待っていたのは何のためだ?
「お、おい紫乃! 武田のやつら、刀を抜いてやがる! どうなってんだ!?」
武田軍は次々に伊達軍を迎え討つ構えをとり始めた。