第2章 右目を追う
謙信殿は、私の耳もとで囁き始めた。
「・・・紫乃には、私とかすががどう見えていますか?」
「そ、そんなの、とっくに似合いの恋仲だと思っています! かすが殿の一途な心もしかり、彼女に対する謙信殿の愛情も深い。お二人の絆がどれほど強固なものか、見ていてすぐに分かります」
「フフッ・・・」
「謙信殿・・・?」
「・・・紫乃とあの竜も、そうなのでは・・・?」
「っ・・・!」
本当に、本当に謙信殿は食えないお人だ。
──すると、すぐに謙信殿は耳に寄せていた顔を離した。
「・・・おや、怒らせてしまったようですね」
私の背後には政宗殿がやってきていた。
すると彼は馬に乗ったまま、私の体を謙信殿の馬の上からかっさらった。
乱暴に政宗殿の馬に乗せられると、がっしりとその腕に抱えられる。
「アンタもこの俺を足止めしてcool downさせるとは、乙なことしてくれるじゃねぇか。・・・だが、世間話なら甲斐のオッサンとしてきな。残念だがコイツのレンタルはしてねーんだ」
「そうですね。紫乃は私の友ですが、今はそなたと共に戦う剣。・・・私にも美しき剣がそばに在りますから・・・そなたから奪う気など、ありませんよ。・・・しかし大阪でそなたが倒れることあらば、奥州ともども、私が引き受けましょう」
「 フッ・・・アンタも相当食えねえ奴だよな」
二人のやりとりが心に滲みた。
大阪へ攻め上らんとする政宗殿を、謙信殿は激励しているのだ。
にらみ合う中に笑みを浮かべている。
上杉全軍が撤退を終え、伊達軍は人取橋を渡った。