第2章 右目を追う
恥ずかしくて他に話題はないかをくるくると考え始める。
「そ、そういえばお前っ、傷はどうなのだ! 少しは癒えたのか!?」
「あぁ? こんなもん何ともねぇ」
「お前はいつもそう言うが、前だって腹に穴が開いているのに出陣して血まみれで帰って来たじゃないか!」
「うるせーな、小十郎みてぇなこと言いやがって」
「いいから見せてみろ!」
ムキになってしまい半ば強引に彼の鎧の襟元を緩めた。
政宗殿は迷惑そうにしてはいるが、本気で抵抗することはない。
しかし彼の鎧は全身を覆っており、どこをどう解いていけば傷に辿り着けるのかまったく分からない。
仕方なく上半身をところどころまさぐって、留め具を探した。
「・・・」
政宗殿は、じぃ・・・っとこちらを見ている。
「・・・な、なんだ?」
「お前、わざとやってんのか?」
「・・・? な、何がだ?」
ほんのわずかに余裕のなさそうな彼の表情。
襲われかけたあの夜の表情を思い出して、私はサーっと青くなった。
「い、いやいやいや! 違う! そんなつもりではない!」
「敵陣で大将の鎧を脱がそうとするなんざ、お前もずいぶんと肝の据わった女になったな」
「馬鹿を言うな! 私はだな、お前の傷を心配しただけでっ・・・!」
心臓が良くも悪くもバクバクと鳴り出した。
敵陣で盛るような大将だとは思わないじゃないか。
一体何を考えてるんだこいつは。
ニヤリと笑った政宗殿は、いつものように私に手を伸ばしてきた。
「筆頭!」
しかし、その直前で良直が知らせに入った。
「・・・何だ」
「上杉の軍が、引き上げていきます!」
橋の向こうにいた大軍が、どんどん退却していったのだ。