第2章 右目を追う
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幾日か経っても、上杉軍は動く気配を見せなかった。
早く大阪へ行きたい。
皆そう思っていたはずだが、この数日で兵たちや政宗殿の様子は変わっていった。
このつかの間の休息で滋養に専念するとともに、政宗殿は時折ボーッと考え込むような仕草をする。
「・・・政宗殿?」
「・・・なんだ」
床几(しょうぎ)に腰掛けている政宗殿の隣に、私も膝をついて腰を落とした。
政宗殿は気だるげに膝の上に肘をついており、目線を私に落とす。
「・・・急いていると思ったから、お前がこうして素直に足を留めるとは思わなかったぞ」
「フン。あの軍神が何を考えて兵を置いてるかなんぞこの際どうでもいい。・・・忘れねえモンだな。ここは俺が奥州平定を遂げた戦場だった」
彼の目は、どこか遠くを見ていた。
思い入れのある戦場なのか。
・・・ここで奥州平定を成し遂げた。
それはめでたいことのはずだ。
・・・でも、政宗殿が考えていることは手に取るように分かった。
時折幸村様も、同じ目をすることがあるのだ。
仲間を犠牲にして戦に勝ち、その地と名声を受ける。
それは時に大きな疑問を感じてしまう。
そのことに、政宗殿も思いを巡らせているのだろう。
「・・・でも、今の奥州は政宗殿に守られている。豊臣からも守りきったのだ。・・・政宗殿は間違っていない」
「フッ・・・」
「なっ、何が可笑しいのだ」
すると政宗殿は私の髪に触れる。
思わず言葉を飲み込んでしまった。
「俺はまだ何も言ってねぇ。・・・先回りして頭ん中を読まれちまうとはな」
・・・っ・・・
そう言われて初めて、彼の心の内ばかりを考えていることに気づいた。