第2章 右目を追う
─『奴の腹心のみがすべての重圧を背負っている』─
お館様はそう仰っていたけれど、そのとおりだ。
きっと片倉殿は背負っていた重圧を重圧とは感じていなかったかもしれない。
それでも敵が彼に目を付けたことが、彼が背負っていたものが大きいという証だ。
だからこそ、政宗殿のそばに戻してやりたい。
傷の癒えぬ政宗殿を引き止められなかったのは、そんな私の我が儘なのだ・・
「筆頭!」
「どうした」
「人取橋の向こうに、上杉の軍勢が待ち構えてます!」
良直の報告に、私は政宗殿以上に眉を寄せた。
謙信殿の軍が、なぜ?
「・・・あの軍神が今俺とやりあいに来るとは思えねえけどな。だが立ち塞がるなら仕方ねぇ、突破するぜ」
「ま、待て、政宗殿! 謙信殿はお前と戦うことを望んでいるとは思えない! まずは話を聞こう!」
ここで二人が戦うなど無意味なことだ。
──広大な土地を分断する細い川にかかる人取橋。
その前に来ると、確かに向こう側には上杉軍が橋を塞ぐようにびっしりと待ち構えていた。
・・・しかし、何もしてはこない。
「何言っても聞いちゃくれねえし、立ち退いてもくれません! それに、あの上杉謙信の姿も見えません! 筆頭、突破しますか!?」
謙信殿、いないのか。
一体何を考えているのだろう。
謙信殿のことだから、きっと何か策があってのことだ。
豊臣側につくわけもない。
そんなことになれば、お館様が黙っているはずがないのだ。
「・・・根比べってわけか。仕方ねぇ」
政宗殿は馬を降り、軍を休ませるよう指示を出した。
上杉軍が動き出すまで、ここに留まるしかない。