第1章 再会の意味
「で、でも、確実にお前を撤退させるには、誰かが殿にならねばならなかったのだぞっ!」
「なんでそこでテメェが残ろうと思う!? 殿の兵は最初からいるだろうが!」
彼らしくない、そう思った。
どの兵も命の重さなど同じ、そうやって部下を思ってきた政宗なのに、なぜそんなことを言うのか。
もしや自分のことを命を懸けた伊達の兵たちとは同等に扱っていないのでは、紫乃はそう思った。
「舐めるな! 私だって、いつでも死ぬ覚悟はできている! お前の兵たちと何も違わぬ!」
「・・っ・・・テメェは何も分かってねぇ・・・」
「分かっていないのは政宗殿のほうだ。私は殿としてお前の軍を逃がした。誉められることはあっても説教される覚えはない」
「・・・ふざけんなっ・・・死ぬ覚悟なんざ・・・」
「政宗殿?」
「テメェが死ぬ覚悟なんざ俺の方はまだできてねぇんだよ!」
「っ・・・な、・・・」
政宗はそう言って彼女の目を睨み付けた。
紫乃が勝手に命を捨てようとしたこと。
そのことに怒っているのだ。
理解した紫乃だが、同時に恥ずかしさが込み上げてくる。
「・・・な、何を言って・・・わ、私は忍なのだぞ・・・覚悟を持って戦へ出るのは当たり前ではないかっ・・・!」
「・・・紫乃」
政宗が彼女の後頭部に手を添えると、彼女はピクリと反応した。
こうするとすぐに彼が口づけをすること、それを分かっているから。
「政宗殿っ・・・」
──でも、今日はそうではなかった。
添えた手はすぐに離されると、政宗は彼女から目を逸らした。
「・・・もういい。アンタ、もう甲斐へ帰れ」
「・・・・え?」
政宗は、それ以上何も言わなかった。
彼女の顔を見ることもなかったのだ。