第4章 雪どけの朝
「・・・お館様・・・?」
向かい合う武田と伊達。
誰もが刀を置き、お館様の言葉を噛みしめていた。
「確かに、世は戦国。好いた者と簡単には一緒になれぬ世じゃ。
しかし、紫乃よ。独眼竜、そして幸村のように、次の世を担う若い者が、それを変えていけぬ理はない。
わしら先人の敷いた道のみを行く必要などないのじゃ。武田と伊達が、手を取る日が来ないと言い切るのはなぜじゃ?この戦国の世に終わりが来ないと言い切るのはなぜじゃ?
先の日のことなど、わしらは知らぬ。なればそれを憂い、自らの道を閉ざすことなど、あってはならぬ。
・・・お主らで作ればよい。お主らが、胸を張っていられる世を。わしは、それを裏切りなどと思わんよ」
「・・・・お館さまぁぁあああー!!」
お館様の胸に飛び込むと、山のようなその不動の体が、私を受け止めてくれた。
そして父のように、頭を撫で、抱き締めてくれたのだ。
「ハッ、あんたにゃ敵わねえな、オッサン」
どんなに理屈を捏ねようと、私はこの温もりを、甲斐の温もりを知っている。
私の故郷は甲斐なのだ。
還る場所を失っては、たとえ政宗殿と結ばれようとも、私は真に幸せになどなれはしない。
お館様に抱き締められながら、隣にいた佐助様が、ポンポンと頭を撫でてくれた。
「あーあ、ひどいよ紫乃。俺にはなーんにも言わずに出て行っちゃうんだからさ」
「佐助様っ・・・ごめんなさいっ・・・」
「独眼竜のものになったって、俺は紫乃の兄貴分でしょ?」
「はいっ・・・」
積もった雪が朝陽に反射し、なんとも眩しい朝。
武田と伊達が手を取る日が、必ず来る。
そんな世に、私たちが変えてみせる。