第4章 雪どけの朝
なんと政宗殿に酌をしてもらうなんて予想しておらず、私は猪口を持つ手が震えたが、政宗殿はそこになみなみと酒を注いだ。
「酔ってしまうぞ、こんなに・・・」
「酔えよ。どうせここには俺しか居ねぇんだ」
・・・どういう意味だ。
くそ、心臓が鳴り止まない。
その音を無理矢理静めるようにして、私は猪口の酒を飲み出した。
「甲斐には何て言って出てきた?」
「・・・幸村様には、もうそばには居られぬことを告げてきた。他には、何も。文だけを残して、ここへ来た」
「・・・そうか」
「何だか変な心持ちだ。昨日まで、私の帰る場所は甲斐であったのに。そこにもう帰れぬなどと」
弱音を吐いたが、政宗殿はそれには答えてくれなかった。
ただ酒を味わうように飲むだけ。
「・・・おい政宗殿、何か言って」
「アンタが好きだぜ、俺は」
「え・・・」
なぜ彼がいきなりそんなことを口にしたのか、まるで分からない。
ただ彼は私を見つめて、ポツリとそう言ったのだった。
「な、なんだっ、いきなりっ・・・」
「アンタが甲斐を捨てて来たことを、後悔させねぇって言ってんだよ」
「・・・政宗殿・・・」
お互いの瞳は、いつもより多くの水分を含んで揺れていた。
それは酒のせいであり、見つめ合うと、ぼんやりと視界も揺れるのだった。
「・・・・政宗殿」
政宗殿と最後に口づけをしたのは、いつであっただろうか。
酒に濡れた自分の唇を舐めとると、同じく濡れている彼の唇を、じっとりと見つめた。
「・・・政宗殿・・・。
あの・・・・・・・・・・・寒くないか・・・?」