第4章 雪どけの朝
───そして私はまた、奥州へと向かった。
文は幸村様に託し、私が甲斐を離れてからお館様にお渡しいただくようにお願いした。
今日は奥州と甲斐の行き来で忙しく、この道のりもすっかり馴れてしまった。
しかし、もうすっかり夜になり、奥州に近づくにつれ、肌を突き刺すような寒さに包まれていく。
「なんという寒さだっ・・・」
武田を振り切った喪失感で、気分は良好とは言えなかったが、また、政宗殿に会える。
これ以上彼を待たせるわけにはいかない。
私はもうこれ以上ないほど、彼を待たせたのだ。
──城につく頃には、すっかり夜も深くなっていた。
辺りは静まり返り、里に人の姿はない。
政宗殿も、片倉殿も、きっと眠ってしまっているだろう。
門番に話せば城を開けてくれるかもしれないが、それは気が引けた。
(・・・仕方ない)
私は木の上から城の屋根に飛び移ると、政宗殿の寝所がある奥の間の前に降りられるよう、屋根裏をつたっていった。
とても静かだった。
息を潜めれば、政宗殿の寝息が聴こえてくるのではないかというくらいに。
「・・・っ・・・」
しかし、屋根裏から少し見えた奥の間の様子に、胸が鳴った。
政宗殿は眠っていなかったのだ。
布団に入らず、着流しに羽織を着たまま、遠くを見ていた。
胸が鳴った理由は、それだけではない。
あまり意識していなかったのだが、私はこうして彼の『寝所』を訊ねて来てしまっている。
敷かれた布団や、鎧でも袴でもない着流しを着ている無防備な姿が、ここが寝所であるということがありありと伝わってくる。
あの布団に、もしや私が組み敷かれはしないだろうかと、ドキドキと胸が鳴っているのだ。