第4章 雪どけの朝
甲斐に戻った私は、こっそりと城に入り、幸村様のいる奥の間の前で立ちすくんでいた。
この襖を開ければ、幸村様がいる。
私の気持ちを話したら、幸村様は何と言うだろう。
・・・どんな答えでも、受け止めて下さるということは、分かっている。
けれど、それがどんなに彼を傷つけることになるか、それを目の当たりにすることが怖いのだ。
そして、私の答えは、幸村様だけではなく、お館様にもお伝えせねばならない。
失望されてしまうだろうか。
私が政宗殿に落ちてしまうなど、きっと、そんなことはないと信じていたからこそ、送り出して下さったお館様。
私はそれを裏切ってしまったのだ。
そんなことが頭の中をぐるぐると駆け巡り、どうしても、この襖を開けることができずにいる。
『・・・紫乃』
っ・・・
襖の中から、幸村様の方が先に、外にいる私に声をかけた。
「・・・はい」
『戻ったのだな。奥州は寒かったでござろう』
「・・・ええ・・・」
襖を隔てているからか、幸村様の声はいつもよりも遠く聴こえる。