第3章 幸村の想い
「っ・・・」
「紫乃、泣くな」
「お前、他人事だと思って・・・」
「うるせー。アイツとも今生の別れってわけじゃねぇだろ。里帰りくらい許してやらぁ」
「・・・じゃあもう、幸村様とは、闘わないということなのか?」
「ハッ、そんなわけねーだろ。すぐにでも決着をつけに行ってやるぜ」
「お前言ってることがメチャクチャだぞ!」
政宗殿の腕の中から抜け出して、彼の瞳を睨み付けた。
このまま城に連れかえられては困るので、少し距離をとった。
政宗殿は、いつもここにいる。
私は何度も逃げたのに、彼はいつも、自分の気持ちに正直だ。
「・・・もういい。政宗殿、私は行くからな」
「今度はすぐ戻って来い。俺に迎えに来させるなよ?」
「・・・政宗殿。私は、お前が思っているよりずっと、お前のことが好きだ。・・・もう逃げたりしない」
「・・・っ、早く行け。ここで俺がお前を食っちまう前にな」
「っ・・・く、食われては困る! それじゃあな!」
──政宗殿の方は、もう振り返らずに走った。
私はこんなにも女だったのだ。
彼に包まれた体が、いつまでも熱い。
彼の硬い胸の感触、私の背と腰に回された強い腕の感触、それがまとわりついて、離れない。
もう、彼と、しばらく口づけをしていないことすらも、この唇が感じ取っている。
身体中が、政宗殿を求めているのだと思い知った。
──甲斐へ戻ったら、幸村様に、別れを告げなければならない。
幸村様の想いに、応えられぬこと。
それでも幸村様が大好きだということは、伝えてはならない。
その資格が私にはないからだ。
愚かにも私は、敵の大将を好きになってしまった。
──私はこれから、甲斐を捨てるのだ。