第3章 幸村の想い
「ま、政宗殿、私は決して、お前に会いにきたわけではない・・・」
目を合わさぬまま、そう呟くだけで精一杯であった。
「ここまで来といて何言ってんだ」
「本当だ。孫兵衛たちにここに縛られなければ、まっすぐ甲斐へと戻っていたはずだったのだ。・・・幸村様のもとへ」
「・・・チッ」
幸村様の名前を出した途端、政宗殿は分かりやすく眉をひそめた。
それはおそらく、私がその名前を出すと同時に赤面したからである。
私は籠手から仕込み刃を出すと、それで体をぐるぐる巻きにしていた縄を切り始めた。
すぐに切れて、シュルリと足下に縄が落ちる。
「・・・政宗殿。豊臣を滅したこと、佐助様よりお聞きした。・・・この戦をお前と共に戦えたこと、誇らしく思っている。いや、政宗殿ならきっと日の本を救うと信じていた」
「フン、だったら、これからも信じて付いて来い。簡単なことじゃねーか」
「簡単なことではない。少なくとも、私にとっては。とてもできぬことだ」
「何ぃ?」
政宗殿は距離を詰めると、私を、先程までくくりつけられていた木に背がつくまで追いやってきた。
「・・・テメェ、真田幸村に何か言われたのか?」
──っ・・・
「フン、図星みてぇだな」
言い当ててきた政宗殿から、すぐに顔を背けた。
しかし彼はそれを許さず、私の顎をがっしりと掴みあげ、自分のほうへと向けた。
「政宗殿っ・・・」
「今さら俺が、テメェを手離すと思ってんのか?」
「ま、待てっ・・・!」
このまま無理矢理口づけをされることは、今まで何度もあったのだが、今の私はそれを受け入れることはできなかった。
幸村様を裏切ることはできない。
答えを急がなくていい、そう言って下さった幸村様のお気持ちに応えぬまま、ここで政宗殿の口づけを受けることは許されない。
「やめろっ・・・!」
全身全霊の力を集め、やっと政宗殿の腕を振り払うことができた。
私の顎をがっしりと固定し掴みあげていた彼の手は、振り払った瞬間宙を舞い、行き場をなくした。