第3章 幸村の想い
四人とともにしばらく馬を走らせ、伊達の城下が見えるあたりまで来ると、私はそこで止まった。
「・・・しかし、もうこんな騒ぎを起こされては困るぞ」
「紫乃が来ねーのが悪いんだろ? ホラ、筆頭に会ってこいって。」
「・・・いい。私はこれで戻る。お前たちを見送っただけだ」
「はあ!?」
「私は・・・政宗殿には会えない」
「おい紫乃! 何言ってんだよ!」
しばらく来ない間に、奥州の風は冷たくなっていた。
政宗殿はまた、この空の下、この城の庭先で、刀を振るっているのだろうか。
それとも、片倉殿と語らっているのだろうか。
・・・それでいい。
政宗殿には、私なぞいなくても、彼なりの生き方がいくらでもあるはずだ。
幸村様のおそばにいたいなら、私がそれを捨てればいいだけ。
出会う前の私たちに、戻ればいいだけなのだ。
「・・私は、もう・・・」
「あーもう! 口で言ってもだめだな! おらお前ぇら! やるぞ!」
「おう!」
四人は刀を抜くと、それを私に向かって突きつけた。
「は!? な、なんのマネだ!?」
四人が刀を抜いても、私の方は刀を抜く気はなかった。
しかし、政宗殿と出会う前の私に戻るということは、ここで刀を抜く私に戻るということである。
そんなことが、できるのか?
「紫乃、お前はちょっとここで俺たちに捕まってな!」
「はあ!?」
四人がかりで飛びかかってきて、私を縄で縛り上げると、そのまま城の付近の大きな木の幹にくくりつけたのだ。
「おい、やめろ! 動けぬではないか!」
力を入れても、忍び刀を抜こうとしても、四人がかりの拘束はさすがに抜け出すことができない。
「うるせえ! 今、筆頭を呼んできてやらあ! それまでそこでじっとしてな!」
「なっ・・・!?」
「筆頭と話して、それから決めろ! それが筋ってもんだ!」
四人は私を置いて、城内へと駆けて行ってしまった。
私は本当に、政宗殿に、会いたくなかった。
会えば自分がどんな気持ちになってしまうか、容易に想像できたからだ。
しかし、私はもう、ここから逃げ出す努力をすることはやめていた。
「よう」
──四人が駆けて行った方とは逆の方向に、すでに奴の姿があったからだ。