第3章 幸村の想い
──「紫乃様」
「なんだ」
考え事をしながら城下の警備をしていると、森の方向から戻ってきた配下が、慌てた様子で私を呼んだ。
「北で少しばかり衝突があったようです。国境を守る兵が、他国の兵に仕掛けられたようで」
「衝突?」
「はい。お館様にも報告しましたが、ただの小競り合いゆえ、忍で対処するように、と。"紫乃を向かわせれば十分だ"と言っておりましたので・・・」
「分かった。私が行く。場所は?」
「最北の矢倉です。仕掛けてきた兵は伊達の者かと思われます」
「・・・え?」
髪を結い上げながら、私は配下の言葉に目を丸くした。
伊達の兵?
なぜ武田が伊達に仕掛けられねばならぬのだ。
「佐助様は越後の様子を見に行ったまま戻っておりません。紫乃様、私もお供致します」
「・・・いい。一人で大丈夫だ」
「しかし・・・」
「平気だ。行ってくる」
奥州の方角へと、私は急いで忍具を飛ばした。
今はまだ政宗殿に会いたくないのに。
いや、政宗殿に会いに行くのではない。
国境で起きている小競り合いの様子を見に行くだけだ。
それでも、この見慣れた道は、政宗殿へと続く道。
そこを辿るように飛びながら、私は北を目指したのだった。