第3章 幸村の想い
──────
甲斐に留まったままの私が思い出すのは、幸村様のことばかりだった。
想いを告げられる前は、すぐにでも政宗殿のところへ戻るつもりであったのに、今はそんな気にはなれなかった。
本当は、この度の戦は政宗殿と共に戦ったのだから、豊臣を討ち取った彼に祝いの言葉のひとつでもかけに行くべきなのだ。
武田と伊達、二国の関係からしても、私が礼儀としてそれくらいのことをするのは、しかるべきこと。
それでも、幸村様に言われたのだ。
『男として、政宗殿のところへは戻ってほしくない』
幸村様は、あんなふうに自分のお気持ちを、他人を制するようなお気持ちを言葉にすることなどなかったのに。
幸村様のお気持ちへの答えを見つけるまで、とても政宗殿のところへなど行く気にはなれなかった。
『紫乃は某に、いつも力をくれる』
幸村様・・・
『愛している。共に過ごした日々、今日までずっと』
幸村様っ・・・
──私だって、幸村様が好きだ。
その気持ちの中に、恋としての想いはわずかも混じり気がないかと問われたら、私だって、全くない、などと否定はできぬ。
幸村様を、男として愛すること、それはこれから努力をすれば、できるはずなのだ。
私ならできる。
だって今までずっと、ずっと近くにいたのだ。共にいたのだ。
幸村様のことが大好きで、幸村様とこれからもずっと一緒にいるためなら、私は何だってできるはずなのだ。
私が幸村様を愛せばいいだけだ。
そうすれば、私はこれからも幸村様と一緒にいられる。
お館様とも、佐助様とも、変わらず一緒にいられる。
何も失うものはなくなる。