第3章 幸村の想い
頭の片隅には紫乃のことを思っていた。
政宗と想い合っている仲だということは分かっている。
しかしそれゆえに自身の想いを封じねばならぬという道理は、たしかに誰にも決められてなどいないのだ。
幸村は、その秘めた想いの終着は、己の中に埋めるだけではないということを考え始めたのだった。
己の考えを口に出すこと、それが正しいことでなくとも、己の心を信ずること。
それは前を見て進むことだと、彼はこの戦で得た教えを胸に抱いた。
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安岐から大阪へかけて要塞「日輪」が進行しているとのことであったが、それはこうして飛行しながら嫌でも目につくほどのものだった。
その要塞が進む度に軋むからくりの爆音が、地響きのようなおぞましいうなり声をあげていたのだ。
「あそこに、幸村様がいるのかっ・・・」
長曾我部が造り上げた「富獄」も大分悪趣味な代物であったが、改造されたこの「日輪」もその極みであった。
要塞の天高いところに取り付けられた数多の反射鏡は、日の光をその中心部へと集めている。
幸村様の姿がどこにあるかはまだ分からぬが、一軍がこの要塞の行く先に潜伏している気配は感じ取れていた。
荒削りな潜伏戦術、これは薩摩のものだろう。
幸村様は、大丈夫であろうか。
いくら薩摩の援護を受けているとはいっても、相手はこの人の何倍の馬力か分からぬほどのからくりの要塞だ。
慈悲の多きお心と、人を殺めることに戸惑いを宿すその槍筋には、相手があの冷酷な知将として名高い毛利という男では相性が悪すぎる。
「幸村様・・・」
私は木々の枝に降り立つと、そのまま幸村様の計画を崩さぬよう、息を潜めた。
進路の左右に気配があり、要塞をかなり近くまで引き付けているようだ。
なにか策があるのだろうか。