第2章 右目を追う
仕方なく立ち上がると、先程まで好き放題いじくり回されていた部分に残るぬるっとした感触に、平静を装わなければならなかった。
「・・大丈夫か? 紫乃。顔が赤いぜ?」
「っ・・・大丈夫だ!そ、それより、何があったのだ?」
「ほらよ、ちょうど来たぜ。見てみな」
元親は、この林に入る前の岩場を指差した。
そこは伊達軍と長宗我部軍が今夜の一時の寝床としてとして据えている場所なのだが、なにやらそこが騒がしかった。
「筆頭!」
「筆頭! 見てください!」
「うまく逃げてきたみてぇだぜ。独眼竜、お前さんとこの副将だろう?」
・・・・・。
嘘っ・・・
「片倉殿!?」
片倉殿は、拐われた日と何ら変わらない、傷ひとつない姿でそこにいた。
伊達軍の喜びの声が飛び交う中で、政宗殿は決して表情を変えなかった。
「政宗様」
「・・・小十郎・・・」
しかし私には分かった。
心に押し留めた感情が、溢れだしていること。
誰よりも片倉殿の帰還を待ち望んでいた政宗殿が、今どんなに喜びを感じているか。
それが分かっていた私の目からは、彼の代わりに感激の涙が溢れ出した。