第1章 生きてみせろ
「あぅ」
赤子はすっかり落ち着いてしまった。
オーラを垂れ流して死にかけていたのが嘘のように……なんとも見事な「纏」をしているのだった。
これでオーラ切れで死ぬことは、ない。
クロロは考える。
(何故、いきなり纏を?)
思い当たるフシと言えば、只ひとつ。気紛れにクロロが纏をして見せた………
「あー」
「……お前、俺を真似たな?」
「あぅあぁ」
「…ふ」
「真似たな」と発したクロロの言葉を真似ようというのか、しかし上手くいかないらしい。
口角を上げたクロロは、初めて赤子に触れた。
血とゴミに汚れた、小さな身体は予想外に柔らかかった。
(これは、また……
ぐにゃぐにゃした生き物だな)
これではどこを持ったらいいのか分からん、
と舌打ちすると、クロロは着ていたシャツを脱ぐ。
脱ぎ捨てたシャツで赤子をぐるぐる巻きにし、何とか持てるようになった生き物を、長い腕で抱き上げる。
「あぅ」
「……安心しろ」
2組の黒い視線が交わる。
「お前は自力で生きてみせた。
だから生かしてやる。
そうだな、次は『念能力者』になってみせろ。
すべてはお前次第だ」
「おあぇ」
「…あぁ、名前が要るな」
いつまでも、お前お前と呼ぶ訳にもいかない。
ふと足元に1冊の本が見えた。
先程までクロロが読んでいた祈祷書である。
赤子のオーラに揉まれた際、落としたのだろう。
パラララ………パラ…
風がめくった頁には、とある宗教画が描かれていた。
「成金貴族が死ぬ間際に改心して、聖人の庇護を乞う」という、どうしようもない話だ。
しかし、この聖人の奇蹟は興味深かかった。
弾圧者に殺されても殺されても死なず、ついに死ぬ段には自ら火種を抱えて爆死する。
やっと死ねたと思いきや、衆人は彼の死を受け入れない。曰く、「彼が死ぬはずない、必ず甦るのだ」と。
「……お前の名はルカだ
ルカ、殺しても死なない聖人の名だ」
「うぁ」
懸命におうむ返ししようとする赤子、もといルカを抱え直し、クロロはホームへ足を向けた。
幻影旅団のホームへーー・・・
第1章ー完ー