第2章 蜘蛛の巣
「信じられない!
団長、貴方何を考えてるの?!」
いきなり振り向いたパクノダは、珍しく高い声でクロロに詰め寄った。彼女が示すのは、部屋の隅に積まれた衣服の山だ。
「まさかとは思うけど、アレをこの子に着せてるんじゃないでしょうね?」
「……着せてはいない。寸法が合わないから巻いてるだけだ」
「巻いてる、ですって?!
……待って。団長、おしめ。
おしめはどこにあるの?」
「無いみたいだね、おしめ」
パクノダの質問に答えたのはクロロではなく、山と積まれた洋服に手を突っ込んだマチだった。
底の方でぐしゃぐしゃに丸められたシャツを引っ張り出し、汚物で汚れたそれを開いて見せる。
「……つまり、古着をおしめ替わりにして、ついでに洋服替わりに巻いてたってことね」
再び肩を震わせたパクノダは、ギロリとクロロを睨み付けた。
「マチ!団長から赤ん坊を取り上げて!」
「はいよ」
言うが早いか。
マチの念糸がルカの身体に巻き付き、次の瞬間、ルカはマチの腕に抱かれていた。
「な」
「マチ、この子の事をお願いね?
私は必要な物を揃えてくるから」
「了解」
クロロには発言を許さず、マチには拒否権を与えず、パクノダは迫力ある笑顔で書庫を出て行く。ほどなくして、階下の玄関が乱暴に閉じられる音が響き、彼女の怒りを伝えた。
「……なんだ、今のは」
意味が分からない、とこぼすクロロに、マチは嘆息混じりに告げる。本当に分かっていないらしい。
「団長……この子、ルカだっけ?
こんな扱いしてたら駄目だよ。ほら、よく見たらお尻は爛れてるし、汗疹も酷い。赤ん坊は綺麗にしといてやらなきゃ」
「死にやしない」
「それ、パクには絶対言わないで。
パクが小さい生き物に弱いの知ってるだろ」
処置なし、とマチが首をふると腕の中のルカが紅葉のように小さい手を伸ばしてくる。高く結った髪の揺れる様が気になるのだろう。
「あう」
小さい掌に自分の人さし指をくれてやると、ぎゅっと掴んでくる。その微笑ましさにマチが頬を弛めた時、
「何だよ、これ?!」
「うわーっ‼俺の刀が!鍔が!」
階下からウボーとノブナガの悲鳴が聞こえた。