第1章 生きてみせろ
流石のクロロも、想定外の光景に一瞬目を奪われる。
女は褐色の肌に、純白のネグリジェを纏い、
長い黒髪を首にはりつけていた。
漆黒の瞳には生気がなく、息は荒い。
白い服は下半分が黒く変色しており、
足元には・・・
ゴミと共に赤黒い水溜まりができていた。
フッ、とクロロを見るともなく視界に入れた女だったが、その双眸は何も語らない。
視線を動かすのも億劫だと言わんばかりに目をそらし、何もない空間に震える手をかざした。
(念、か)
クロロはわずかに身構えるが、発されたオーラにやはり敵意はなかった。
女の目の前、何もない空間に木製の扉が現れる。その扉に身を預け、女はそのまま「どこか」へ行こうと足を進める。
今にも倒れ込みそうな細い背中に、声を掛けたのは単なる気紛れだ。
足元の赤子を示しながらクロロが言う。
「おい、ソレはいいのか?
お前が産んだのだろう」
おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!
「……………っ……」
おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!
「………ココは、
何を捨てても………
受け入れて、くれるのでしょう?」
苦しい息の下、女はかろうじて答えると
今度こそ、扉の向こう側へと消えた。
『バタン』
扉の閉じる音が、やけに大きく響く。
おぎゃー!おぎゃー!
おぎゃー!おぎゃー!おぎゃー!
あとに残されたのは
泣き叫ぶ赤子とクロロだけだった。