第1章 生きてみせろ
外界の人間は今日もゴミを捨てに来る。
トラックで、ヘリで、飛行機で。
ありとあらゆる方法で、
ありとあらゆるモノを捨てに来る。
だが、奴らはいつも自分達の世界(テリトリー)から出ようとはしない。
そうやって、
この街の果てにばかりゴミを撒くから
世界の軋むような喧騒も、この中心部には届かない。
流星街は今日も曇天だーーー・・・
そんな空の下、
クロロは久しぶりに本を読んでいた。
ビル3階分はゆうにあるだろうゴミ山に腰掛けて、周囲のゴミを全て売り払ってもまだ足りない程、値の張る祈祷書を読んでいた。
ーー・・・最近、流星街の長老達から厄介な依頼を受けたせいか、めっきり読書時間が減ってしまった。
アウトプットするばかりでインプット不足。
自分が薄っぺらになるような気がする。
(まぁ、
旅団も結成して2年しか経っていない。
ジィさん連中に恩を売っておきたいのは山々だからな……)
誰に聞かす訳でもない独り言を、心中の嘆息と共に飲み込んだ。
その時ーー・・・
いきなり人の気配がした。
「!」
クロロは本から顔を上げることなく、顔色を変えることもなく、目線だけで気配の元を探す。
驚くべきことに、その人物はクロロが居座るゴミ山の麓を歩いているところだった。
(あり得ない)
半径100m以内に自分以外の生き物はいない。
円を使ってそれを確かめたからこそ、こんな場所でくつろいでいたというのに。
(しかも「いきなり」現れた、だと?)
つい数瞬前までは、影も形も、気配さえなかった人間。
しかし、視界の端ではその人間が確かに存在し、今もフラフラと動いている。
(念能力者か)
そうアタリを付けたクロロだったが、オーラを探っても特に敵意があるようではない。
そいつを見ればー・・・
覚束ない足取りで、ただ前に進むことにのみ必死になっている。
長い黒髪が邪魔をして目も見えないのか、ほぼ四つん這いになりながら、身体をぶつけては小さなゴミ山を崩している。
(なんだ、死にかけか?)
興味を失いつつある対象は、途切れ途切れに何か口走っているようだった。
「何なんだ、あの女」