第2章 蜘蛛の巣
「早かったな、マチ
もう始末して来たのか」
瞠目するマチとパクノダをよそに、クロロはいつも通りの口調で応じる。
「なんだ、パクも一緒か」
部屋の外で固まるパクノダにも気付き、クロロはソファで仰向けに伸ばしていた身体を起こす。
スチール製の本棚だらけの部屋の中、中央のソファで寛ぐ姿は完全オフモード。白いシャツに黒のジーンズというラフな恰好のクロロは、仕事中オールバックにしている髪も下ろしている。
しかし、ただならぬ気配に扉を破壊してまで駆け付けた2人の目線は、ある1点に集中していた。
クロロの腹の上に乗る、どう見ても赤ん坊とおぼしき生き物にー……!
((………))
「早かったな、じゃない」
「なんだ、じゃないわよ」
それでも流石クモ、と言うべきか。
とりあえず、身の危険は無いらしいと分かり、マチとパクノダは息を吐いて臨戦態勢を解き、呆れ混じりの台詞をこぼした。
「ホームに帰って、居間から何から物が散乱していて、団長が絶で誰かと対峙してたら、何事かと思うでしょう?」
「ああ、すまない
散らかしたのはルカだ」
パクノダからの苦情に、クロロは素直に謝る。そして、ソファから足を下ろして起き上がり、腹から胸に抱え直した裸の赤ん坊を示した。
「ルカって、その子のこと?」
クロロの隣に座り、パクノダは生まれたままの姿の赤ん坊に顔を近付ける。ルカは人見知りする事もなく、じっと見つめ返し、大きな黒い瞳を細めて笑った。
「うあ、あう」
「あら可愛い。女の子?」
その様子を腕組みして見ていたマチが、堪らず口を挟む。眉間にこれでもかと皺を刻んで。
「団長、その子なんなの?」
「拾ったんだ」
「そうじゃなくて、いや、それも聞きたいけど。……その赤ん坊、絶をしているように見える」
「!!」
マチの指摘にパクノダは赤ん坊を二度見する。すると、拙くはあるが確かに絶をしているではないか。
(そうだ、そもそも最初ホームには誰の気配もしなかった。普通、赤ん坊がいたら嫌でも気付くのに……)
「あぅ~」
マチとパクノダの目線に応えるように、ルカが片手をパタパタと動かした。