第2章 蜘蛛の巣
「お前達に気付かれなかった、となるとコイツの絶も及第点だな」
満足気なクロロはルカの頬を右手で包む。そして親指で目尻を軽く擦ってやると、ルカは嬉しそうに手足を動かした。
(………)
人を騙し、欺き、時には容赦なく殺しもする手なのに、それが今は優しく赤ん坊をあやしている。パクノダは意外な光景に目を奪われた。クロロとの付き合いも長いと思っていたけど……こんな一面もあるのか。
「で、どうしてその赤ん坊は念が使えるわけ?団長の隠し子?それなら不思議じゃない気がするけど」
事態を把握出来ない事に苛立ち、マチが少々乱暴に先を促す。
「俺の子供ではない。もし俺の子だとしても隠す必要はない。……例のジィさん達からの依頼の成果だ」
「無理矢理起こして成功したの!?」
「!」
念能力者の効率的育成について、流星街の長老からクロロへの依頼は2人とも聞き及んでいた。その依頼に応える為、クロロがこの街の赤ん坊に片端から何をしていたのかも。
「そりゃ凄いね。絶対無理だと思ってたのに」
「見ての通り、絶と、あと纏も出来るようになった」
ふ、と笑みを浮かべつつ、クロロはパクノダとは反対側から覗き込むマチへ、ルカの顔を向けてやる。
「ルカ、絶はもういい。纏をしてみろ」
「んぅ」
クロロの言葉に従い、ルカはギュッと両目をつむる。すると、一拍遅れで絶が解かれ、赤子のオーラが顕現する。
と、同時にブオッ…!と一陣の風が巻き上がり、ソファの足元に積まれた本がバサバサと崩れていく。
「また!止めろ、ルカ!本が痛む」
「あぅ」
部屋の外で聞こえたクロロの声はこれか、とマチとパクノは思いあたる。まったく、人騒がせな事だ。
「原因は不明だが、コイツが纏をすると高い確率で風が起こる」
「あぁ、それでこんなに物が散乱してるのね」
ココはいつでも散らかってるけど、と辺りを見やったパクノダの動きが、ある1点でピタリと止まる。
「……どうしたの、パク?」
動きが止まるだけならまだしも、彼女の肩が震えているように見え、マチが呼び掛けた。