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彼岸花を抱いて

第1章 願いをこめて




「──……そろそろですね」



広い空間に澄んだ声で告げられた呟きをきっかけに



「やべ、遅刻だ!!」



いつも通りの日常を始めた慌ただしい声は気付かない。
自分が過ごしてきた日常が大きく変わる事に──……




「そろそろ時計を買い直さねぇと………ん?」



石畳を軽やかながらも焦りを含んだ靴音で弾いていると、露店に並んでいる様々な果物の中から浮遊する果物を見付け
瞬時に呟きの主である河野 智晃(コウノ チアキ)は嫌な顔をする。


時間がないのに果物を盗もうとしている現場に居合わせてしまった事が嫌なのではなく、魔法を使って悪さをする事に顔を歪めたのだ。



智晃
「くそ…時間が」



「うわっ…何だよ!」


どこからかそんな声が聞こえると浮遊していた果物がいきなり落下する。
慌ててその果物をキャッチして元あった場所に戻してから時間がないにも関わらず声の聞こえた方へ顔を覗かせる



「魔法をこんな事に使うなんて…いけませんね」



薄暗い中にとても澄んだ綺麗な声が響いた。



智晃
(あの制服…俺の学校と同じ)


「…っあ、遅刻…!」



そんな事をのんびり考えている場合ではなかった事を思い出した智晃は、慌ててその場を後にした。



最後に一瞬だけ見えた怯える表情を思い出せば、もう大丈夫だろうと感じながらも…
同校の制服を身に纏う澄んだ声の主の事が頭にこびりついて離れなかった―…



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