第13章 忘れない
母
「あら?もう帰ってきたの?」
智晃
「おう」
母
「探偵の仕事は忙しいって言っていたのに珍しいね」
帰宅し父が寛いでいるリビングへ入ると食器を洗っていた母が先程、出掛けたばかりの智晃の姿を見ると不思議そうに声を掛けた
智晃
「なぁ、話してー事があんだけど」
立ったままの智晃が放った一言に両親は一瞬、首を傾げたもののすぐにソファに腰を下ろす。
それを見ると智晃もソファに座り二人へ視線を向け
智晃
「俺、さ」
両親
「?」
智晃
「…向こうの世界に帰る事になったんだ」
母
「え?向こうの世界って…」
父
「時が来たら迎えに来る…って言ってたやつか」
とうとうその時が来てしまったのか、と二人は顔を見合わせた
だが、いつその時が来ても良い様に過ごしてきた。
寂しいが二人は悔いがないという表情で智晃を見る
母
「いつ…戻るの?」
智晃
「明日の夜」
母
「そんな急に…」
もう少し猶予があると思っていた母は悲しそうに表情を歪ませたが、父に肩をそっと叩かれると頷いて笑みを見せた
そんな二人を見て智晃は敢えて明るい声を上げ
智晃
「まぁ、向こうに行っても帰って来れねぇわけじゃねーし。会いに来るからさ」
母
「智晃…」
智晃
「だから、もう会えねーみてぇに泣いたりすんなよ?元気でいてくんなきゃ、困るしよ」
自分達を元気付けようとする息子の言葉に母は思わず涙ぐんでしまったが今し方、言われたばかりの事を破るわけにもいかず笑って見せた
父
「嗚呼、智晃の言う通りだな。お前も元気でやれよ」
智晃
「おう」
母
「いつでも帰ってきてちょうだい。沢山、智晃の好きな物を用意しておくから」
智晃
「ありがとう。…本当ここまで俺の事を育ててくれて、感謝してます」
急に改まり智晃は膝に両手を当てて深々と頭を下げた
父
「いや、それは此方の台詞だ。うちの子になってくれてありがとう」
母
「本当に。ありがとう、智晃」
暖かい空気を纏う三人は誰が見ても本物の家族。
またいつ会えるか分からないため家族で過ごす残された時間を後悔なく過ごした。