第12章 断らない探偵事務所
手書きの料理本があるのかと思いながらも分量をしっかりと量る凉晴を容易に想像できてしまえば、思わず笑いそうになるのを堪え
智晃
「手書きって?」
凛
「向こうに居るいつも料理を作ってくださる方が書いたものみたいです。此方に来る時にお願いしたみたいですよ」
智晃
「へぇ。…うし、さっさと作るか」
手を洗い食材を手際よく刻んでいく智晃の隣で凛は彼の手元を覗き込みながら感心したように呟く
凛
「手際が良いんですね。良く作っているんですか?」
智晃
「まぁな。母さんの手伝いしたり、俺が代わりにやったりな」
凛
「へぇ…お料理するの好きですか?」
智晃
「嫌いではねーな。…喜んでもらえると嬉しいしよ」
思わず出てしまった言葉に智晃は、しまったと表情に張り付けてからすぐに照れ臭そうに笑った。
彼女に問われると気が付けばそれ以上の事を答えてしまっている。
出会った当初、魔法が嫌いな理由を問われた時も簡単に答えてしまっていた…それはやはり、彼女の雰囲気のせいでもあるが馬鹿にしたように笑わない
それが一番の理由かもしれないと智晃は思った
凛
「そうなんですね。その気持ちは分かります。…私の両親も幼い頃に一生懸命作ったケーキを喜んでくれました。とても不格好で…お世辞にも綺麗だと言えるものではなかったのですが」
智晃
「…子供が一生懸命、自分のために作ってくれたらどんなもんだって嬉しいのかもな」
今まで語られなかった凛の両親の思い出。
彼女の過去を聞いた事により話しやすくなったのかもしれない
不思議ばかりだった凛の事が少しずつでも分かるのが嬉しいと智晃は感じていた
智晃
「凛の両親はどんな人だったんだ?」
控え目に声を掛けたそれに隣に居る凛が笑む気配がすると、智晃は安堵し手を進める