第2章 序章
遠月学園の極星寮。そこには新たに入った入寮生がいた。
入学式早々に遠月茶寮学園に通う生徒達の神経を逆なでし、何人もの生徒の不興と反感を買った編入生。幸平創真。
しかし、彼は持ち前の明るさと料理技術ですぐに寮に馴染んだ。
そんな彼が寮に入って、しばらくした頃。
創真は、朝の日課の畑仕事を手伝う為に廊下に出た際ふと、足跡がして振り返った。なんの変哲もない。普段通りの廊下、その先には鍵のかけられた一室。
そこの鍵は寮母であるふみ緒が管理しており、また、その鍵を人に貸すことがない。開かずの間だった。
「気のせいか?」
普段ならば気にも留めない彼であったが今日はふと、その事が気になって仕方がなかった。
畑に着くと、既に作業に取り掛かる寮の面々。
「あ、創真くん!おはよう。どうしたの?」
同級生で少し頼りなさげな女子、田所恵に声をかけられる。
「あ、いや、俺達の使ってる階に開かずの間があるだろ?あそこってなんで使われてないんだろうって思ってさ」
「あそこはふみ緒さんの前の寮母さんが使ってた部屋でね。物置になってるんだよ。」
話し声を聞きつけて寮の先輩であり上級生の一色慧が混ざってきた。
「ふみ緒さんに、詳しく聞くといいよ。まぁ、普段の十傑自慢よりその人の話は長くなるけどね。」
毎日耳にタコができるくらい同じことを何度も言う自称極星寮の聖母。ふみ緒の、長話を思い出して青ざめる。
「まぁ、もう1つは住居者がいるからだけどね。田所ちゃんは一度会ったことがあるんじゃない?」
「え?」「そいつどんな人なんすか?」
知らない寮の人間に 興味が湧き、聞いてみると。普段より少し照れ臭げに一色は微笑み、畑を見渡す。数種類の質のいい野菜を植えられた。広々とした畑。寮みんなの汗と涙の結晶。
「この畑を僕に譲ってくれた。先輩だよ。今休学中だから一緒に二年生やる事になるけど」
そう言ってまた畑を耕しにいく。