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幸福のレシピを貴方に。(食戟のソーマ)

第2章 序章


耳を木霊する悲鳴のような、悲しい音。
誰かが泣いている。誰が?
誰かが怯えている。何に?

物心がつき始めた頃からその音は私の中で鳴り響く。
気味が悪い。この音を聞くと体の力が抜ける。喉がヒリヒリと焼け付く。目を閉じるとそのまま永遠に眠ってしまうのではないかと怖くなる。
それでもその音は私の腹から音を発する。
まるで恐怖を駆り立てるかのように。
でも、それ以上の恐怖を彼女は既に知っていた。

二、三度その音が大きく響くと合図とばかりに
ケタケタと笑うような声が聞こえ、外からこちらを滑稽そうに見下ろしてくる。
動かぬ体を必死に動かして、耳を塞ぐ。

襖を隔てた部屋の向こうで声がする。

「おい、サッサと飯をやってこい!!お前の子だろ!?」
「嫌よ。もうあんな気味の悪い子に、何で!!」
「それでも母親か!?」
「母親なんかじゃないわ!!あんな化け物の子。あんな子の母親になる気なんてなかった!普通の子が欲しかったのに!!」
「お前の所為じゃないのか?奇妙な術やらイカサマで儲けてるような家だもんな?何が霊能者だ。」
「貴方こそ!あれだけ毛嫌いしてるって言ってたくせに、未だお義母様のお金使って生活してるくせに!!自分は独り立ちできてない癖にうちの家族の文句は一丁前ね!!!
何が凄腕の料理人よ!?」

罵声に混じって聞こえる誰かの啜り泣く声。

ナイテイルのは誰?
私のお父様。幸せになりたかったって、ようやく手に入れたのに失ったって、哭いてる

ナイテイルのは誰?
私のお母様。愛したかったって、普通の子供が欲しかったと、啼いている。

ナイテイルのは誰?
私のお腹。お腹すいた。って生きたい。って鳴いてる。

ナイテイルのは誰?
ごめんなさい。ごめんなさい。普通の子じゃなくて、化け物で、
ごめんなさい。生まれてきて。

張り付く喉から嗚咽の様に掠れながら私の口からか細く聞こえる。

啼いている。哭いている。鳴いている。啾いている。
部屋いっぱいに響くナキゴエ。


じゃあ、この頬を濡らしているのは、
涕いているのは、誰?



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