第3章 一章
事前に指示した通り。それは、
『敵が逃亡したら、何を置いても他の生徒に見られる前に仕留める事。』
「『歴史を、そして、人を守る』こと
それが貴方達の最も重要な使命なのだから」
必ず生き残り、傷ついても此処に帰ってきて、それを何よりも全うしてくれ。
顕現して最初に言われた命令だった。
普段ならばそれを了承する。しかし、今と状況が違う。
何より、自分達刀剣にとっては、誰とも知らない人間より主人こそ優先すべき人間だった。しかし、『主人の命令は絶対。』だった。
唇を強く噛み締めて、歌仙は残された敵を血走った目で睨みつけて部屋を出て行った遡行軍を追った。
部屋に冷たい風が入り込む。窓は開けてはいない。神菜の持つ強い霊気が部屋を包んでいた。この場にいる遡行軍を逃がさないために逃げる方法は限られてる。術者が解くか、術者が死ぬか。
「さぁ、遊んでくださいな?」
大人になりきってない幼さの残る神菜の顔は艶然とした微笑みを浮かべて遡行軍を見ていた。
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「首を差し出せ!」
逃げ出した最後の1匹を斬り捨てようやく息をつく。取り逃がした者も、姿を見られた者もいない。
体を休める間も無く急ぎ主の元へと急ぐ。
道に迷いかけるも微弱な主人の霊気を辿って先程の部屋に入る。
目に飛び込んできたのは、霧散し灰となった数匹の遡行軍。
傷を負いながらも刀を振り下ろす大太刀と太刀の姿があった。
それは執拗に何度も何度も、振り下ろした先には球状の膜があり、凶刃を阻んでいた。その先に守られるように倒れ臥した人。
それを頭で認識するよりも早く体が動く。
痛みに絶叫を上げて消えゆく大太刀の姿。しかし歌仙兼定はその身体を何度も劈く。
「貴様ら・・・万死に値するぞ!」
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「やはり、このような事はするべきではない。
僕達は人の為に存在してる。守るのは最高の誉れだ。しかし、その為に何故、君が・・・」
「本来ならば学校を辞めて、本丸にいるべき審神者を条件付きとはいえ、こうして自由にさせてくれてるのです。そのように言わないで。私は大丈夫だから。」
優しく微笑む主人の顔。伸ばされた手からは赤いモノが流れ落ちる。歌仙は抱き締めた服の影に隠れた痛々しい傷跡を見たくなかったから。