第3章 一章
「主、しっかりしたまえ!」「・・・っ、」
突然肩を揺すられ痛みと共に目が覚めた様な感覚に陥った。
「か、せん?」「あぁ・・・」安堵の息と共にふわりと穏やかな笑みを浮かべてこちらに微笑む。
開かれた窓から月明かりと冷たい風が差し込んでくる。
夜空にはすでに幾多もの星がきらめいていた。
「私、どれくらい寝ていた?」「ほんの四半刻だ。何があったか覚えているかい?」「ええ、・・・いっつ!?」「動かない方がいい。それなりに深い傷だ。」
手当ては既に済んでいるのか腕からのぞく肌は白い包帯が巻かれていた。辺りを見渡す。カーテンはボロボロに引き裂かれ、皿の入った戸棚は倒され、ロッカーも醜く歪んでいた。その上、床は血で汚れてる酷い有様だ
「全部、片付けた?」「ああ、今、燭台切が政府と連絡を取っている。時期に治るさ。」「そう・・・うまくいったのね」
深く息をつく。安堵故に。
振り下された凶刃は寸での所で顕現した歌仙兼定によって弾かれた。
振り翳した男は目の前に立ちはだかる男を忌々しげに睨み唸り声を上げた。
「随分、慎重に事を運んでいたみたいだけど生憎、此方も無策で此処に来る理由がなくてね?」
先程まで刃を突き立てられていたと言うのに神菜の顔は酷く冷静だった。我が主人ながら恐ろしい事だ。と少し苦笑いをしたのを思い出した。
「僕の主に対する狼藉は勿論、この時代を脅かす悪漢よ。誅伐される覚悟は出来ているのだろうな」
冷たく研ぎ澄まされた刃を手に悠然と微笑んでいるが内心歌仙兼定は焦っていた。
目の前の男は、否、男と呼ぶべきかわからない。ある者は傘を被っていて表情こそ見えないが瞳は狂気を帯びている。
ある者は丸太の様に太い腕と頭にツノの生えた異形。
またある者は目元を呪符で覆い、体は上体は杭を打ち込んでおり、下は蜘蛛の異形の姿。人ならざる鬼と呼ぶに相応しい出で立ちの者達。彼らを刀剣達や審神者はこう呼んでいた『時間遡行軍』と。
けして倒せない相手ではなかった。恐れもない。しかし、数が多い上、今は自分の命よりも優先すべき主人がいる。彼女をなんとしても守らねばならなかった。
その一瞬の隙が命取りだった。刃を交えた打刀が再び剣を振り下ろし歌仙の肩を切り裂く。そのまま何体かと共に外に出て行く。
「歌仙兼定。事前に指示した通りに動いてください。」
