第3章 一章
私は最後まで残さず食べたのだろうか?
あの時の記憶は酷く曖昧だった。
覚えているのは、酷く息苦しかった事。
苦しくて、喉が焼けたような痛みで目元から涙が滲んだ。苦しくて痛くて捥がくように喉に爪を立てても痛みが増すばかりで楽にならなかった。
霞む視界の先には誰もいない。両親がいつ出て行ったかも何か言われたかも覚えてない。唯、もう部屋に戻って来ないだろう。と悟った。
苦しい、悲しい、寂しい。
唯、最後に見た両親の顔だけは覚えていた。
優しい顔なのに、泣きそうな顔だった。
後悔してくれていたのだろうか?否、そんな訳ない。世の中そんな甘くない。淋しさが心を覆い尽くしていくのがわかる。だから、そんなありもしない事が浮かぶのだ。
涙がポロポロと溢れていく。
苦しい、体の力がどんどん抜けて重くなっていく。怖い、辛い、助けてほしい。そう思っても自分には助けを乞える人などいないのだ。悲しいと寂しいと縋っても応えて抱き上げてくれる腕はないのだ。たった一人で誰にも必要とされることなく、人知れず死んで行くのだ。
嗚呼、なんて無意味な命だろう。痛みに足掻く気力すら失い空虚な気分だ。このまま何も感じなくなった身体はやがて朽ちていくだろう。そうしたら私はどこに行くのだろう?野山に捨てられるのだろうか?火に焚べられ灰になるのだろうか?どちらにしろ関係ない事だ。
目を閉じる事が出来ず入り口の方を見ている。この期に及んでまだ誰かが来てくれると思っている自分に嫌気がさしそうだ。
もう、目を閉じてしまおう。最後の力を振り絞って固く目を閉じようとした時、扉が開く音がした。反射的に目を開ける。
しかし、誰もいない。ほら、やっぱり・・力が抜けて閉じた瞼に温かな雫が落ちてきた。
・・・・・
・・・・・・・・・
目を開けたのは、それから三日経った日の朝。
知らない小さな部屋だった。