第3章 一章
泣き疲れて眠ってしまった理美の頭をゆっくり撫でてやる。
「良かれと思って薬研達に任せていたけど返って傷つけていたんだね」
「薬研くん達の事どうしようか?やっぱりお目付から外す」
「ううん。申し訳ないけどこのまま続けてもらって」
本来、刀剣男士は顕現者である審神者をなくすと人の形を解き、本霊に魂を返す。審神者の記憶だけを深く眠らせて残して。
その記憶が完全に戻る事はない。一度本霊に戻され、また顕現した際に分霊達の魂が混ざり合い再び招ばれた審神者の元に顕現するためだ。
人でいう『生まれ変わり』という存在がいたとしても、その人が前世の記憶を覚えているとは限らない。
「記憶がなくても彼らが彼らである事に違いはない。その事がわかってる。わかってるからこそ悲しいの。忘れられる事が。」
そして避けたところで寂しさだけが募り、押し潰されていくだろう。
「薬研達には苦労をかけるけど、今まで通りに、危ない事は全力で止める様に。もう少ししたら手入れ部屋にいくから、光忠の方で労ってやって、」
自分の立場上、守るべきものを危険に晒したのだ野放しに労えない。
「了解」
襖をゆっくりと閉める。それを確認してから洋服ダンスの一番上の引き出しを開ける。
小さな小箱の中に入った古ぼけた鈴。
それは神菜が幼い頃、お目付役に貰った顕現鈴だ。
チリン。
『はいはーい。お呼びですか?おひいさま』
どんなに小さく鳴らしても。この音を拾いすぐにそのお目付役は優しい顔で微笑んで自分の元に来てくれた。
彼と同じ、刀は本丸に顕現してる。
しかし、今はどんなに鳴らしても、彼が来る事はないだろう。
顕現した彼を見たのは数ヶ月ぶりだ。二人にああは言ったが、喜びと同時に寂しさが募っていく。
しかし、だからこそ、嬉しく思うこともある。皆と過ごした時間がそれだけかけがえのないものだから、忘れない。こうして覚えていて、懐かしく思えるのだ。
チリリ・・・
『大丈夫です。いつも僕はおひいさまの側にいますよ』
あの優しいお目付役の声が聞こえた気がした。