第3章 一章
「!?」
部屋から出ようと襖に手を添えるのと、それを阻む様に腰巾着よろしく理美が引っ付いたのはほぼ同時。
引っぺ剥がそうと手を解くもイヤイヤする。
そのまま出て行こうとすると、重石よろしく踏ん張る。
「何?」目線を合わせるとビクッと震える。「主、声怖いよ。抑えて抑えて。怒りたい気持ちもわかるけど」
「別に理美に対してはあんまり怒ってないわよ。」
子供だから好奇心に負けて悪戯する事だってわかってた。にもかかわらず、大事なもの放置してた自分に対する怒りが大半を占めていた。
「理美、もう一度聞くよ。どうして刀を顕現させたの?」
今回幸いにも怪我はなかったが最悪命に関わる事態にもなり兼ねないのだ。
「いっちゃん、達と、約束したの」
いっちゃん。そう呼ばれた刀は過去に一振りだけ存在する。
『今剣』と呼ばれる源義経公の守り刀で、この本丸の前の主人。祖母の初期鍛刀だった短刀だ。しかし、彼はもう
「おみまい、済んだら、一緒に、遊ぶ。って」
「いっちゃん、約束、やぶったりしないのにねんねしちゃってら薬研もみだれも全然、呼びに来て、くれなくて、別の人みたいで、いっちゃんを起こしたら、また遊んでくれると、思って」
でも、今剣の本体が分からず、仕方なく諦めた。が、帰る拍子に今剣が持たせてくれた顕現鈴を落としてしまい。それを拾おうとして鍛刀資材用の刀に触れてしまった。
『今剣に会いたい』強い思いが呼応して無意識に霊力を込めてしまっていたのだろう。
「ごめんなさい。もう、おへや、はいったりしない。いい子にする。ワガママ、いわない。お家こわして、ごめんなさい。だからいっちゃんにあわせて」
怪我はなかったとはいえ部屋が半壊する様な爆発に巻き込まれたんだ。怖くないわけない。泣きじゃくりながら必死に謝罪の言葉を募る。
「わかった。もう泣かなくていい。ねーねも怒って悪かった。
でもね。ねーねでもいっちゃんに会わせられない。ばーばの刀だから理美がどんなにお手伝いしても私がどんなに鍛えても、理美の好きだった今剣も薬研も乱ももう帰ってこない。」
モノであっても宿る魂はたった一つであり、与え宿る魂はそのモノを形作る唯一であるから。
その事一つ一つ丁寧に教えた。分からずとも懸命にそして、
「ごめんね。」
謝るしかなかった。