第3章 一章
「んで、怒るなんてよっぽどの事だよね?何言われたの?」
「ん?まぁもう良いや。面と向かって私に言われた訳じゃないし。あちゃー、火膨れしたかぁ。破けば何とかなるかな?」
「破くのは構わないがせめて消毒液とガーゼと水は用意しておけ」
「というか、他所でやってほしい。」
「と、言いつつ。消毒液とか持ってきてくれるももさんに感謝。」
「破いたところでバイト無理でしょ?代わりに出てやろうか?」
「アキちゃんに任せたらバイト先に居られなくなるよ。イチチ」
一思いに針を刺して浸出液を出したものの、傷口はジクジクと痛む。今日は飲食店のバイトだ。
遠月学生なのに珍しく、接客の方のバイトを頼まれたのは新鮮な上中々に割りのいいバイトなのだ。
が、見た目も結構重要だ。
要するに体液垂れ流しの状態の手ではバイトに向かない。不衛生だ。手に力が入らずうっかり客に食事ぶち撒けかねない。
理由を話せば休む事も可能だ。
いや、それ以前に家の電子レンジ汚れたまんまだ。修理費どれくらいかかるだろう。
「・・・・・・ハァ」「よしよし、なんか分かんないけど休め、休め。」
と、一番の厄介ごと持ってくる人に慰められてもなぁ。
「せめて、事務仕事ならまだ出来るけど。叡山さん、なんか紹介できそうな会社ない?」「流石に、今日一発で紹介するのは無理っすよ。日雇いはぶっちゃけ先輩苦手っしょ?」
「うん。その日出ますって言ってるのに、いきなり新規の職員さんが入って短時間で返されたり、給料が変わったり。」
苦学生が時間割いてスケジュール立ててわざわざ出てるのに、しかも、面接も無ければ保険もないから、何かあった時が怖い。
「ま、まぁ。どっちにしろ、怪我が良くなるまで保留でしょ?悪化しても良いことないし。な!」
「ふむ、人事尽くして天命を待つ。だ。」
「いや、天命を待つ為にいま人事を尽くしてる最中でしょ?
ハァ、ごはん作る気起きないわ。今日カップ麺ね。」
「こらこら、遠月の生徒とは思えない発言だなぁ!?客人に一品出すのが良き妻の」
「アンタが使ったって良いんだぞ?というか、たった二日で炊飯ジャーと電子レンジ壊されれば、いくら私だって心が折れるわ」
「・・・・・・。」
二の句を上げるものはいなかった、そうな。