第3章 一章
「歌仙兼定、今すぐ刃を納めなさい」
刀の切っ先が明紀の首に触れる寸前でピタリと止まった。
よく通る澄んだ声は普段の温和で優しい雰囲気を潜め、流麗でいて、威厳と凛々しさを帯びていた。
歌仙兼定の背後にいた小さな女の子はいつの間にか、その声の主の傍に駆け寄り、その足にしがみついていた。
声の主はその幼子をとても愛しげに見つめ頭を撫でてやる。
「しかし、」
なお言い淀む、歌仙兼定に目を向ける。
「その方は確かに私が招いた客人です。危害を加えないでください。」
「ほらぁ、一報入れないからだよ。あ、アキちゃんお久しぶりだねー。また、一段と男の子っぽくなっちゃって」
「チィーッス!光忠さん。相変わらずイケメンですね」
どうやらこの光忠さんは自分の事を覚えているらしい。昔みたいに返事を返す。
「・・・・知り合いなのかい?」
「うん。主の学友であだ名はアキちゃん。女の子だよ。」
「・・・・え?!」
目を見開き此方を見る。パクパクと音にならない声を発し出す。
「何なら、脱ぎましょうか?」
そう言って上着のボタンを外していく
「い、いや!!結構だ!!
か、髪が短い上、仕草が・・・そ、そ、その。す、すまなかった!!」
顔を真っ赤にしてすぐに刀を納め平謝りし出す歌仙兼定。
や、ヤベェ。こいつ楽しい。
内心そんな事を思いながらも彼を許した。危うく殺される事だったが、
「全く、理美にお礼言ってね。この子が知らせてくれなかったら、危うく首と胴体、永遠のお別れだったんだから」
「勿論、そこのちっちゃなお姫さんにはお礼言うけど、元はと言えばアンタが連絡して置かなかった所為だからな」
「そ、そうだよ!主、客人が来るなら先に連絡してほしいよ。
そうすれば僕だってちゃんと心構えを、そもそも。何の連絡も・・」
歌仙兼定のお説教が始まってしまった。
「長引きそうだねぇー。とりあえず、お風呂入って来たら?」
「はーい」
此方をコッソリと伺う。妹さんに微笑みかけるもやはり隠れられてしまった。
仕方なく一人で湯に浸かることにした。
風呂上がりに戻って見ると、まだ説教は続いていた。長湯したにもかかわらず、だ。光忠さんが、苦笑交じりに居間に案内してくれた。