第3章 一章
小さな女の子にまずは自己紹介しようと思い急いで追いかける。
あの歳にしては足が速い。ようやく追いつくと見覚えのある人間がいた。
この家の主であった神菜の祖母がまだ、元気な頃に会ったことがある。
緩く波打つ青紫の髪と碧い湖を思わせる美しい目。色白で優しい面差しに違わぬ性格でここに遊びにくると、よく飴玉を渡してくれた。憧れのお兄さんだった。
そんな御仁が年端のいかない小さな女の子の首根っこをガッチリ掴み上げ此方を見下ろしていた。記憶に残るおっとりとして穏やかな佇まいからは、予想も出来ない姿に目を剥く間に、御仁に、長ドス突き付けられたので殊更に驚いた。
「へ、う、あ、あの」「貴様、何者だ!?どうやって入ってきた」「いや、何者って、あたしだよ。歌仙さん、というか玄関から入って来ましたよ」「見え透いた嘘を・・・、主である審神者の留守を狙って来たのだろう」「いや、この家の主と一緒に入って来たよ?」「そんな訳であるか!主が僕らに一報もなく友人を招いたりしない!」
『あいつ、だから一報入れとけって言ったのに!!』
明紀は居候する身とはいえ、そう進言したのだ。
それを、家主は家着いたらすぐにみんなに紹介するから大丈夫。と言ったのだ。それ以上何も言えないからその通りにした結果が、これだよ!
しかも、
「大体、許嫁でもないのに、年頃の女人の家を尋ねるなんて無粋にも程がある。」
コイツ、私を男だと思ってるし、これは、
「今の御時世、男だろうが同じ屋根の下で寝食共にするなんて珍しくないよ。」
面白いじゃないか!!からかい倒してやろう!
「冗談じゃない!僕の目の黒い内は主に狼藉は許さないよ。」
「本人の同意があれば狼藉とは言わないし君の意見は必要ないと思うんだけど」
「・・・いいだろう」
そう言って長ドスを一度鞘に収めると、女の子を腕から降ろす。
「・・・・・首を、差し出せ」
ヤバイ、からかいが過ぎた。
後悔先に立たず。凶刃は自分のすぐ傍まで来ていた。